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名古屋地方裁判所 平成6年(わ)1731号 判決 1997年4月25日

本店所在地

名古屋市中川区松重町三丁目四八番地

法人の名称

有限会社ライトオート一

代表者の氏名

丸山猛

本籍

名古屋市中村区名駅三丁目九一七番地

住居

名古屋市中区丸の内二丁目二番一九号シティコーポ東照三〇二号

会社役員

丸山猛

昭和二九年一二月二一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する(公判出席検察官磯部一。弁護人内田龍)。

主文

被告法人有限会社ライトオート一を罰金一七〇〇万円に処する。

被告人丸山猛を懲役一年六月に処する。

被告人丸山猛に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人法人有限会社ライトオート一及び被告人丸山猛の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人法人有限会社ライトオート一(以下「被告会社」という。)は、名古屋市中川区松重町三丁目四八番地(平成三年三月一八日までは名古屋市中村区名駅三丁目九番二六号)に本店を置き、自動車の販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成三年三月二六日までは二〇〇万円)の有限会社であり、被告人丸山猛(以下「被告人丸山」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人丸山は、被告会社の右業務に関して法人税を免れようとして、期末棚卸高の金額を圧縮したり、売上の一部を除外するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、

第一  平成元年五月一日から平成二年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が九二二五万八二七八円であったのに、平成二年七月二日、名古屋市中村区太閤三丁目四番一号所在の所轄名古屋中村税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が八九二万三八九五円であり、これに対する法人税額が二六四万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三五九七万九九〇〇円と右申告税額との差額三三三三万四〇〇〇円を免れ(別紙1-1脱税額計算書、別紙1-2修正損益計算書参照)、

第二  平成二年五月一日から平成三年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が七八五五万三六五五円であったのに、平成三年七月一日、名古屋市中川区尾頭橋一丁目七番一九号所在の所轄名古屋中川税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が九六五万五七八四円であり、これに対する法人税額が二五九万二九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二八四二万九七〇〇円と右申告税額との差額二五八三万六八〇〇円を免れ(別紙2-1脱税額計算書、別紙2-2修正損益計算書参照)、

第三  平成三年五月一日から平成四年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が七一二〇万二八六五円であったのに、平成四年六月三〇日、所轄の前記名古屋中川税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が一一七三万一三八一円であり、これに対する法人税額が三二二万三〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二五五二万四七〇〇円と右申告税額との差額二二三〇万一七〇〇円を免れ(別紙3-1脱税額計算書、別紙3-2修正損益計算書参照)

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の記号番号は、検察官請求証拠の記号番号(番号は記録上算用数字)である。検察官に対する供述調書は「検察官調書」、大蔵事務官に対する供述調書である質問てん末書は「査察官調書」と記載する。

判示事実全部について

一  第三回、第四回公判調書中の証人高橋隆美の各供述部分

一  高橋隆美の検察官調書(抄本。甲二一)

一  丸山八重の査察官調書(甲二三)

一  大蔵事務官作成の査察官調書七通(甲九。各抄本で甲一五ないし二〇)

一  検察官作成の捜査報告書二通(甲二四、二五)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲四)

一  登記簿謄本(乙三。被告会社の関係でのみ)

一  被告人丸山の当公判廷における供述

一  第六回公判調書中の被告人丸山の供述部分

一  被告人丸山の検察官調書二通(乙一、二)

一  被告人丸山の査察官調書五通(乙五、六、一一、一三、一四)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(甲一)

一  被告人丸山の査察官調書二通(乙九、一〇)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(甲二)

一  被告人丸山の査察官調書(乙一二)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(甲三)

一  被告人丸山の査察官調書二通(乙七、八)

(補足説明)

被告人丸山は、判示各事実につき、平成四年四月期における三〇九万七五〇〇円の雑収入(利息収入)を除いて、ほ脱の故意を否認し、被告会社の申告が誤っていたのは、被告会社の経理、税務一切を任せていた税理士高橋隆美のずさんな経理処理により生じたものである旨供述しているので、同被告人にほ脱の故意を認めた理由を補足して説明する(以下、公判調書中の被告人及び証人の各供述部分も、便宜被告人及び証人の供述と記載する。)。

一  前掲証拠によって認められる被告会社の設立の経緯とその内容、被告人丸山の被告会社における権限と活動状況、判示各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の申告状況等は、次のとおりである。

1  被告人丸山は、昭和五二年三月に京都学園大学経済学部を卒業し、実父丸山毅が経営する不動産関係の会社に勤務し、その後、喫茶店を経営したり、陸送業をしたりしながら、自動車販売の仕事も手掛けていたが、昭和五八年ごろ、ライトオートの名称で自動車販売業を始め、昭和六〇年に自動車販売を目的とする有限会社ライトオート(本店・名古屋市中村区名駅三丁目)を設立した。被告人丸山は、同社設立当初、金融機関から融資を受ける便宜上、実父を代表者にしたが、実質的な経営者として同社を運営していた。被告人丸山は、昭和六三年、有限会社ライトオートの社名を有限会社ライトオート一に変更し、その代表取締役に就任し、平成三年三月、本店を名古屋市中川区松重町三丁目に移転した。被告会社は、このようにして設立された会社で、元の本店所在地である中村区名駅三丁目の店舗のほかに、支店として、春日井市に春日井インター店及びレーンシュポルト店、静岡県沼津市に沼津店があり、従業員は本支店合わせて約一一名である。被告人丸山は、被告会社の代表取締役として、業務全般を統括しており、仕入れは、同被告人がそのほとんどを直接相手方と交渉して価格等も決めており、従業員が仕入れる場合でも、価格等について同被告人の決裁を得て行なうことになっていた。また、同様に販売についても、本店の分は被告人丸山が直接相手方と交渉して行ない、支店の分は、同被告人が直接交渉しない場合でも、価格等重要な点は同被告人の了承を得て取り決めることになっていた。

2  被告会社の事業年度は、五月一日から翌年四月三〇日までであり、昭和六二年四月期以降の決算及び確定申告は、顧問税理士の高橋隆美が関与して行なっていた。被告会社は、昭和六三年九月ごろに所轄中村税務署の税務調査を受けて、昭和六一年四月期から昭和六三年四月期までの三期分について、売上除外や経費の過大などを指摘されて修正申告した。

3  被告会社では、決算時期の毎年四月末から五月始めごろに帳簿類や領収書の控え等の経理関係の書類が高橋税理士のもとに集められ、同税理士が総勘定元帳を作成し、これに基づいて仮決算の書類を作成して被告人丸山に報告し、その了解を得た上、正式の決算書類と確定申告書を作成し、同被告人が確定申告書の代表者の自署押印欄に署名押印して所轄税務署に提出するのが通常であり、本件各事業年度も同様であった。そして、被告会社では、前記税務調査を契機に会計帳簿について改善が行なわれたものの、なお不十分で、補助簿等は完備しておらず、現金出納帳の記載も完全なものではなかった。

4  被告人丸山が被告会社の代表者としてした本件各事業年度の申告の内容は、別紙各修正損益計算書の公表金額欄記載のとおりであり、売上に関しては、本件各期を通じて売上除外が存在し(ただし、平成四年四月期は、架空売上の金額が大きく、結果として増減額がマイナスになっている。)、仕入れに関しては、平成二年四月期には仕入れの繰上計上が、平成三年四月期、平成四年四月期には、架空の仕入れ計上がされており(ただし、平成三年四月期は、前期に繰り上げられていた仕入れと平成三年四月期の仕入計上もれの合計金額の方が大きく、申告額が実際仕入額を下回っている。)、また、在庫に関しては、本件各事業年度を通じて三〇〇〇万円以上を過少に申告していた。そのほか、平成二年四月期において、本店の移転に際して受領した立退料二〇〇〇万円を雑収入としないで仮受金に計上し、その後の申告に際しても修正されることなく放置され、また、平成四年四月期において、草刈宏哲に対する貸付金の利息三〇九万円余りを架空の個人名義の口座に入金させて受領し、簿外処理されている。

二  次に、前記税理士高橋隆美は、証人として、本件各事業年度の申告が被告人丸山の意向にそって税額を過少に申告する意図のもとに行なわれたもので、各期に共通して在庫の圧縮があり、そのほかに各期に個別の不正があるとして、要旨次のとおりの供述をしている。<1> 平成二年四月期については、所得額は在庫を基本に調整した。在庫は、被告人丸山から車種、年式、金額等を一覧できるように記したメモ書をもらったが、一部金額欄が空白になっており、同被告人に確認したが、回答がなく、その分を除外して、メモ書に金額の記載された約七八六六万円を期末棚卸高として計上した(甲二一添付の資料七。以下、甲二一添付の資料を単に「資料」という。)。仮決算の段階で、税引き前利益が三四〇〇万円弱あり(資料1)、法人税が一〇〇〇万円くらいになったので、そのことを被告人丸山に報告すると、同被告人から「そんなに利益はないはずだが、前期よりは少し多めに申告したい」と言われた。前期は、利益が六〇〇万円くらいで、法人税額は二〇〇万円くらいだったと思う。そこで、期末の買掛金があれば利益は減るかもしれないと助言すると、被告人丸山が日付がすべて平成二年五月一日以降になっている領収証九通(資料5)を提出してきたので、それら領収証にかかる商品が四月三〇日までに入庫されたかどうかを確認しないまま、これらを平成二年四月期の仕入高に計上した(資料6)。本店の立退料二〇〇〇万円(資料4)は、被告人丸山から立退料であると言われたので、雑収入に計上しなければならないことを説明したが、同被告人から、「まだ移転費用等の支払いがあるので、この期の雑収入にはしないように」と言われたので、借受金として計上した(資料2)。売上除外とされた分は、例示すると、春日井店の売上で、本支店勘定がないため、同支店の担当者西脇から被告人丸山に宛てた金銭の移動を表わす「丸山へ一〇〇万円」と記載されたメモのようなものを見て、社長借入金に計上したものなどである(資料2、3)。このようにして、この期の税引き前利益を六九〇万円余りとする決算書を作成し(資料7)、これに基き作成された確定申告書(資料8)に被告人丸山に署名押印をしてもらって税務署に提出した。<2> 平成三年四月期については、前期と同様に、本来は売上として計上すべきものを社長借入金、短期借入金として計上している(資料9、10)。在庫についても、被告人丸山に確認したが回答が得られず、前期末の在庫金額と同額の約七八六六万円として仮決算を行ったところ、所得(税引前利益)が約三八〇〇万円となり(資料11)、法人税が一二〇〇万円くらいから一三〇〇万円くらいになった。その旨を被告人丸山に説明すると、同被告人から「そんなに所得は上がっていないはずです」と言われた。被告人丸山から、常々「利益や税額を前期より少しだけ多くしたい」と言われていたので、四〇〇〇万円くらいの在庫であれば一〇〇〇万円前後の利益になることを告げると、被告人丸山から、「お任せするから」と言われた。そこで、四〇〇〇万円という数字は余りに不自然だと思い、若干の端数を引いて期末棚卸高を三九二〇万円という数字にした(資料12)。こうして、この期の税引き前利益を約九六五万円とする決算書を作成し、これに基づく確定申告書(資料13)を作成し、利益や税額等を被告人丸山に報告して、税務署に提出した。<3> 平成四年四月期については、前期までと同様、本来売上げとして計上しなければならないのに、回答が得られずに短期借入金などとして計上されているものが含まれている(資料17、18)。また、当座勘定照合表(資料16)の平成三年一二月三〇日欄に記載のある三五〇〇万円の出金は、本来は草刈宏哲に対する貸付金であり、平成四年一月ごろに被告人丸山からその旨を聞いており、同被告人に仕入れにしておくか貸付金とするかを確認したと思うが、多分返事がなく、仕入れに計上した(資料15)。期末の在庫は、前期の在庫金額と同額として仮決算を行ったところ、税引き前の利益が約三〇〇万円となった(資料14)。その旨を被告人丸山に報告すると、同被告人から「そんなに少なくはないはずだ。売上げも前期より減っているわけじゃない。そんなに少ないのはおかしい。前期より多く申告してもらわないといけない」などと言われた。そこで、最終的に税引き前の利益が一一〇〇万円になるように期末棚卸高を操作して三七九〇万円として計上した決算書(資料19)を作成して被告人丸山に示すと、同被告人から「(在庫の数字が)少ないね」という話はあったが、私が「こうしときました」と報告したら、同被告人は「お任せします」と言って、確定申告書(資料20)に署名押印した。以上のとおりである。

右高橋供述の核心部分は、要するに、被告人丸山において、高橋税理士に対して、被告会社に多額の利益が生じているにもかかわらず、本件各事業年度の所得金額を自己が納税してもよいと考える範囲の前期に比して小幅な増加に留める意向を積極的に示して、その操作を同税理士に依頼し、同税理士において、一部申告期限に追われて事情が分からないまま処理した部分もあるが、基本的には被告人丸山の右指示意向に従って本件各過少申告を実行する作業をしたとの事実を述べる部分にある。そして、この点に関する高橋供述は、被告人丸山とのやり取りについて供述する内容が具体的であること、前期高橋供述中に括弧書で引用したように、これを裏付ける資料も存すること、先に認定したように、被告会社が被告人丸山の個人事業を発展させた会社で、同被告人が業務全般を統括し、仕入れや販売を把握していて被告会社の利益の状態を知り得る立場にあったこと、被告会社の期末棚卸の額は特に異常に過少に申告されており、高橋税理士の単純な計算間違いやずさんな経理処理ということでは到底説明の付かないものであるが、こうした経理処理によって直接利益を得るのは、被告会社の代表者でオーナーである被告人丸山であること、一方、高橋税理士が被告会社から得ていた報酬はそれほど高額とは認められず、同税理士において、税理士資格をも問われかねない本件のような過少申告を独自の判断で行なうとは考え難いことなどに照らして、十分信用できるものである。

三  加えて、被告人丸山の査察官調書及び検察官調書には、一貫してほ脱の犯意を認める同被告人の供述記載がある。すなわち、税務当局は、平成四年一〇月二〇日、被告会社に対する法人税法違反の嫌疑で本件各事業年度の査察調査に着手したが、被告人丸山の同日付け査察官調書(乙五)には、「平成二年六月ごろ、高橋税理士から『納税額で三〇〇〇万円以上になる。』旨言われ、金額の多さに驚き、『そんなに税金を払うと仕入ができなくなるのでなんとかしてください』と言って経費を増やすように依頼した。そして、『毎年少しずつ税金が増えるように申告書を作ってください』と依頼した。そのため、高橋税理士も『もう一度やりなおしてみましょう』と言ってくれ、同月末に『在庫と社長借入金で調整しました』と言われた。決算書や申告書は、前期より少し多めの所得金額になっていたので、お礼を言って申告書に署名押印をした。平成三年四月期も、同様に前期より少し多い税金になるように申告書を作成することを高橋税理士に依頼した。高橋税理士から『在庫を約四〇〇〇万円にしておきました』と連絡を受けたが、在庫が約一億二〇〇〇万円あるものと認識しており、あまりに違いがあるので、『それでいいですか。大丈夫ですか』と聞いたところ、『在庫は変動があるし、委託品もあることだから分からない』とのことでしたので、その額で申告することをお願いした。平成四年四月期も、同様に前期より少し多い税金になるように申告書を作成することを高橋税理士に依頼した。正しい申告をしなかった理由は、所得の四五パーセントが税金で持っていかれることを知っていたので、まともに税金を払えばライトオート一の資金繰りも悪くなるので、税金を払いたくないためと、ライトオート一の従業員で一緒に仕事をしている西脇、水野、金指らに将来独立してもらうためにも会社に内部留保しておきたかったためである。私が脱税をしていたことを知っていたのは、関与税理士である高橋税理士だけである。仮に従業員が知っていたら、従業員も勝手に悪いことをやるようになり、示しがつかないので、従業員は知らない。私は、高橋税理士には、『税金を少なくしてください』とは頼みますが、税金面や経理面は詳しくないので、期末の在庫の圧縮や、売上げを社長借入れにするなどの具体的な処理については、私の意を受けて高橋税理士がやってくれました。ただ、確定申告書を提出する際には、どのようにして所得を少なくしたかは、高橋税理士から説明を受けて聞いていましたので、在庫が実際の金額より少ないことなどは十分分かっていました」などと、極めて具体的にほ脱の犯意を認める供述記載がある。そして、その後の被告人丸山の平成四年一一月四日付け(乙八)、同年一二月一七日付け(乙九)、平成五年二月二四日付け(乙一〇)、同年三月三日付け(乙一一)、同年四月二七日付け(二通。乙一二、一三)、同年五月二八日付け(乙一四)各査察官調書にも、同様に本件各事業年度の申告に際して、ほ脱の犯意があったことを認める供述記載がある。さらに、被告人丸山の平成六年一一月一〇日付け(乙一)、同年一二月一五日付け(乙二)各検察官調書にも、同様に本件各事業年度の申告に際して、ほ脱の犯意があったことを認める内容の供述記載がある。

右査察官調書は、およそ半年にわたって断続的に作成されたもので、もとより被告人丸山が身柄の拘束を受けていたわけではないこと、同被告人において、平成四年一一月ごろ、弁護士に国税当局の査察が入ったことを相談し、その際に、査察官から調べを受けていることも話しているのに、弁護士に対して調べが不当であることを訴えるような話は何もしていないこと(被告人丸山の第一二回公判供述)、そして、公判において、平成四年一〇月二〇日付け査察官調書(乙五)を中心にその供述内容について確認され、大筋で調書に記載のある趣旨の供述をしたことを認める供述をしていること(被告人丸山の第一二回公判供述)、その供述内容がいずれも具体的で一貫していること、調書は、読み聞かせだけでなく、これを同被告人に示した上で、その署名押印を得たものであることなどを勘案すると、これら査察官調書のほ脱の犯意を認める同被告人の供述記載部分は、十分信用できるものである。被告人丸山は、公判において、こうした調書ができたのは、調べのときは否定していたが、調べが余りに長期にわたったので、もうこの辺で終わってほしいという気持ちがあったためであるとか(第六回公判、第一〇回公判)、調書の内容を理解しないままに署名押印したとか(第一〇回公判)、気持ちが錯乱していたためであるとか(第一二回公判)、当初はかなり否定もしていたが、月日が経つにつれて何となくそんなようなことではないかというような気持ちに駆られたこともあったように思う(第一二回公判)などと種々供述しているが、こうした弁解供述は、右に指摘した点に照らして信用できない。

また、検察官調書について、被告人丸山は、公判において、「検察庁で取調べを受ける前に弁護士に相談して犯意を否認する内容の上申書を提出したが、検察官は『税理士が勝手にするはずがない。理屈に合わないことを言うと身柄の拘束もできる』などと言って、自分の主張を認めてくれなかった」と供述しているが(第六回公判)、検察官調書は、最終の査察官調書が作成されてから更に半年近く経過して作成されていること、そして、被告人丸山が、その一方で、当初は刑事訴追されることはないと思っていたとの趣旨の供述をしていること(第六回公判)などを勘案すると、検察庁での取調べを受けることになって、刑事訴追される事態を身近に実感した同被告人が、それまでの供述を翻していったんは犯意を否認しようとしたとしても不自然ではなく、検察庁に対してその供述にあるような上申書を提出したことから、前記査察官調書の信用性が失われるものではない。そして、被告人丸山の検察官調書も、在宅のまま、前後二回にわたり、その間一か月以上の間隔をおいて作成されているが、そのいずれにおいても、基本的には犯意を認める内容になっており、弁護士にいつでも相談できる状況下で取調べがされているのに、第二回目の検察官調書に、犯意を否認したり、取調べの不当性を訴えたことをうかがわせるような供述記載は存しない。また、その供述内容も、査察官調書と同様に、脱税するに至った動機、被告会社の経理についての認識、自動車を担保とした金銭消費貸借契約を含めて問題となった取引等、いずれについても具体的な供述がされており、これを裏付ける資料もあるから、いずれも任意性及び信用性を認めることができるものである。

なお、被告人丸山は、公判において、ほ脱の犯意を否認する一方で、出来上がった申告書が認識していた在庫と比べて大幅に少なく計上されていたこと(第九回公判)、草刈宏哲に対する三五〇〇万円の貸付について、被告会社の金を貸付けながら、その利息を受け取るために、架空人名義の預金口座を設けて利息金を受け取っていたこと、そして、そのことを高橋税理士には説明しなかったこと(第一〇回公判)、被告会社本店の立退料二〇〇〇万円について、高橋税理士から雑収入として計上しなければならないもので、そうすると税金が増えることを説明されたが、そのようなことは非常に困るので何とかしてもらえないかと頼んだこと(第一〇回公判)、平成二年四月期の仕入れの繰上計上について、高橋税理士に対し、これほど利益が出るのはおかしいと言って、本来翌期に計上すべき仕入れ分を繰り上げて計上するようにしたこと(第一〇回公判)などを認める供述をしており、こうした公判供述の一部によっても、同被告人にほ脱の犯意があったことが十分うかがわれる。

四  以上に認定した事実並びに証人高橋隆美の供述、被告人丸山の査察官調書、同被告人の検察官調書及び同被告人の公判供述の一部等を総合すれば、判示各事実について、同被告人にほ脱の犯意を認めるに十分である。

五  弁護人は、本件各事業年度の申告書が事実と相違し、かつ、正規の処理が行なわれていないことは争わないとした上で、<1> 本件各事業年度において、ほ脱して得た利益を隠匿するなどの行為はごく一部を除いて存在しておらず、隠されたとする所得はすべて記帳され、かつ、社内に留保されている、<2> 売上の除外がある一方で、誤って売上とされた架空売上げが存在し、また、架空仕入れがある一方で、仕入れの計上もれが存在するなど、高橋税理士によるずさんな経理処理が行なわれている、<3> 高橋税理士は、在庫についても、全く把握しないまま、仮決算で前年と同じ額を計上しており、税務署から調査を受けたときに調整すれば足りると考えて決算処理をしていた、<4> 高橋税理士による仮決算の作成から本決算の作成までの期間は短く、被告人丸山と同税理士の間で打ち合わせを行うことのできる機会は極めて限られていた、<5> 在庫に関して、契約後輸送中などの理由で未着である車両、輸入後予備検査前の車両、予備検査証がない車両、車検証がない車両、登録抹消車両及び商品価値がない不良在庫車両等が存するが、これらが会計処理上は在庫と評価すべきものであるとしても、被告人丸山にとっては、その多くは在庫と認識することのできないものであった、などとして、こうした経理処理の実情からみても、被告人丸山が高橋税理士に対して個々の取引の処理等について具体的な指示を与えたり、ほ脱の認識があったと推認することには無理があり、本件は、同税理士が勝手にしたずさんな経理処理に起因するものであると主張する。

右弁護人の主張を検討すると、<1> 確かに、弁護人指摘のとおり、簿外処理されている金額は少ないが、各事業年度の決算を不正に操作して、各期において納付すべき税額を少なくして申告すれば、ほ脱行為としてはそれで足りるものである。<2> 関係証拠によると、被告会社にとって税務申告上不利な会計処理がされている取引もあるが、売上については、例えば、平成四年四月期の架空売上げとされた四件の取引をみると、売上先を田中一郎とするもの二件と前田とするもの一件は、いずれも、被告人丸山が被告会社に入金する目的で取引を仮装しながら、高橋税理士に真実を説明しなかったものであり(被告人丸山の第一〇回公判供述等)、残りの売上先を吉澤自動車とするもの一件は、被告人丸山が自動車を担保に取った株式会社吉澤自動車との金銭消費貸借(乙八末尾添付の譲渡担保付金銭消費貸借契約書参照)を受入れ時期と返却時期に対応して仕入れと売上げに計上しながら、そのことを高橋税理士に明確に説明しなかったものである(被告人丸山の第一〇回公判供述等)。また、仕入れについては、被告人丸山も関与して事業年度を繰り上げて計上したものもある。そして、限られた期間内に十分整備されているとは認められない資料から決算を行なわなければならなかった事情も考慮すれば、こうした会計処理の責任は一人高橋税理士だけに転嫁すべきものではない。<3> 高橋税理士が在庫について正確に把握しておらず、在庫額について前期と同様の額を計上するなどの決算処理をしていたとしても、前述したとおり、決算と税の申告は、被告人丸山の意向にそって行われていたものと認められるから、この事実も、同被告人にほ脱の犯意がなかったことを裏付けるものではない。<4> 被告人丸山と高橋税理士の間で打ち合わせできる機会が極めて限られていたとする点についても、前述したところによれば、同被告人が高橋税理士に対して、決算及び申告について概括的な指示を与えることは十分可能であったものと認められる。<5> 在庫としての認識についても、被告会社は、小規模の会社で、取り扱う商品も主に一台一台に個性があって単価も高い自動車であること、被告人丸山が被告会社の業務を統括して仕入れ及び販売の全般を管理していたこと、同被告人が海外旅行に出かける前に母親の丸山八重に渡したメモに客観的な在庫額に近い金額を記していたこと(甲二三、乙二等)、同被告人が、公判(第九回)において、支店とも連絡を取って在庫を把握していた旨供述していることなどからすると、同被告人が被告会社の在庫金額をほぼ把握していたことは明らかである。そして、被告人丸山において、本件各事業年度について、在庫を自らが把握しているところよりもかなり圧縮して申告することの認識を有していたことも明らかである。そうすると、弁護人の指摘する点は、いずれも前記認定を左右しない。

付言するに、弁護人は、租税ほ脱犯の故意につき、いわゆる個別認識説に立脚して被告人丸山に故意の存しないことも主張するが、租税ほ脱犯は、納税義務者が不正の行為により税を免れることにより成立する犯罪であって、各事業年度における所得は不可分であり、故意はこの観念的に不可分な所得を対象とするものであるから、各事業年度に申告所得額、税額を超える所得、税額が存在することの概括的な認識があれば、故意は不正行為と相当因果関係のあるほ脱所得の全部について成立し、個々の勘定科目や会計上の取引事実は故意の対象にならないものと解するのが相当である。

(法令の適用)

一  罰条 被告会社及び被告人丸山につき、判示第一ないし第三の各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項(被告会社につき、更に同法一六四条一項、罰金刑の範囲について同法一五九条二項)

二  刑種の選択 被告人丸山につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪加重 被告会社につき、平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)四五条前段、四八条二項(各罪所定の罰金額を加算)

被告人丸山につき、改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予 被告人丸山につき、改正前の刑法二五条一項

五  訴訟費用 被告会社及び被告人丸山につき、刑事訴訟法一八一条本文、一八二条(連帯負担とする。)

(量刑の事情)

本件は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた被告人丸山が、被告会社の三事業年度分の法人税合計八千万円余を不正に免れた事案であり、免れた税金が多額であり、その罪責は重い。他方、本件犯行の態様が比較的単純で、簿外処理されている金額は僅かであること、本件起訴にかかる各期の本税は全て納付され、延滞税、重加算税についても相当部分が納付済みで、未納分についても分納により納付される予定であること、関与税理士において、被告会社の経理の適正化について強く指導しなかったことや、被告人丸山の意向に安易に協力するような行動を取ったことが本件を助長する結果となったこと、被告人丸山には前科がないこと、本件発覚後、被告会社の経理の改善に努力がされていることなどの事情もある。

そこで、こうした事情と記録にあらわれたその他の事情を総合して、主文の刑を量定する。

(裁判長裁判官 三宅俊一郎 裁判官 長倉哲夫 裁判官岩田光生は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 三宅俊一郎)

別紙1-1

脱税額計算書

自 平成元年5月1日

至 平成2年4月30日

<省略>

税額の計算

<省略>

別紙1-2

修正損益計算書

自 平成元年5月1日

至 平成2年4月30日

<有限会社ライトオート一>

<省略>

別紙2-1

脱税額計算書

自 平成2年5月1日

至 平成3年4月30日

<省略>

税額の計算

<省略>

別紙2-2

修正損益計算書

自 平成2年5月1日

至 平成3年4月30日

<有限会社ライトオート一>

<省略>

別紙3-1

脱税額計算書

自 平成3年5月1日

至 平成4年4月30日

<省略>

税額の計算

<省略>

別紙3-2

修正損益計算書

自 平成3年5月1日

至 平成4年4月30日

<有限会社ライトオート一>

<省略>

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